
今回は天野洋一の『AKABOSHI -異聞水滸伝-』を紹介します。
連載中からこのブログでも何度か取り上げたこともある作品ということもあり、僕的には思い入れもある作品です。
タイトルにもある通り、中国の古典『水滸伝』を題材にした作品です。
『水滸伝』というのは簡単に言うと「108人の英雄が山に立てこもって腐敗した政府と戦う話」といったところです。
水滸伝と言えば「梁山泊」ですね。ジャンプで中国古典を題材にした作品というと、本宮ひろしが『三国志』を題材に『天地を喰らう』と「楚漢戦争」を題材に『赤龍王』を描いてます。前者は作者が飽きて打ち切り、後者は人気が無くて打ち切り(連載誌を変えて継続)となっています。おそらく藤崎竜の『封神演義』が中国物では唯一の大ヒット作じゃないでしょうか? たぶん『AKABOSHI』を始めるにあたって『封神演義』の成功も頭の片隅にはあったと思います。
で、本作は、かなり大胆に原典の『水滸伝』を再構築しています。主人公は戴宗。原作だと神行法という速く走れる術を使うアニキ的キャラって感じで、正直、主人公っぽさはないです。それを敢えて主人公に持ってきたことが、『水滸伝』ファン的には最大の謎かも知れません。そもそも、原作のイメージは全--く残ってないくらいにキャラが変わってて、『AKABOSHI』の戴宗は巨大な剣を振り回す傍若無人な少年キャラになってます。
本編の主人公・流星の戴宗。一枚絵の上手さは特筆物。僕はかなり緩い『水滸伝』ファンなので翻案物は大好物です。「こいつをこう変えたか!」というのが面白いんです。そういう意味で言うと、この作品では原型を留めないくらいに弄ってあるキャラが多くて、『水滸伝』が好きな人でも絵を見ただけでは誰だか分からないんじゃないでしょうか?
花和尚・魯智深は原点のイメージに近いです。
大刀・関勝。まあ、これも見た目は原点のイメージに近いかな。
なんだか骸骨になってる高衙内。
デザインどころか役柄まで別人の洪信。この作品が短命に終わった理由っていくつかあると思います。まず『水滸伝』云々を別にしても、ちょっと物語の序盤がモタついてると思います。梁山泊の入山試験あたりから面白くなったので、どうせ物語を再構築するなら、いっそそこから始めてしまうくらいでも良かったかも知れません。
また、『水滸伝』ファンからするとやっぱり原典を弄りすぎって批判もあるでしょう。まあ、お約束的な痺れ薬とか原典ファンがニヤリとしそうなネタも入ってるんですけどね。そういう意味ではどっちつかずの中途半端になったのかも知れませんね。
繰り返しになりますが、僕はこの作品好きでした。ちょっとゴチャゴチャした印象はあるものの画力も高いですし、やりようによっては海賊漫画の『ワンピース』に対して山賊漫画の『AKABOSHI』になれたかも知れないと思ってます。続きが読みたい作品です。